五十嵐くんとはキャンプ場を出てから大館市街まで一緒に走り、そこでお別れをした。


大館からは比内を経由して鹿角に入ろうと考えていたため、国道から県道にルートを変更し、地元の人しか通らない道を走る。

道沿いに集落はあまりなくて、点々と民家が存在するほかは鬱蒼とした森が続いていた。

車もたまにすれ違う程度だ。

深い森の中を走っていると東北に来たことを実感できた。

針葉樹林の深い色合い、匂いを感じ森とつながる。

自然と一体になれるのだ。

鹿角市に着いた頃には16時半を回っていた。

今日は知人の長澤さんの実家にお世話になる。

長澤さんの実家はダンススクールを経営されていて、ご両親ともにダンスのプロであり先生である。

お父さんは出張で不在だったので、出迎えてくれたお母さんと日が暮れるまで会話をした。

ダンスの事から人生の事、世間話に至るまで色々な内容を話した。

社交ダンスに触れる機会が今までなかったので、お母さんの話を聞いているだけで新鮮だった。

ダンスフロアを寝床として提供して頂き、荷物をおろして近くの銭湯に足を運んだ。

駅前の銭湯はまさに古い銭湯だった。

入り口を入ると男湯と女湯の暖簾に分かれ番台と脱衣場と風呂場。

脱衣場の色々な場所に常連客のお風呂セットが乱雑に放置されていて、暮らしの一部として銭湯が機能していることがうかがい知れた。

常連客の要望なのか風呂の温度設定が異常に高く、2,3分浴槽に浸かるのが精一杯だった。

脱衣場で体の火照りを冷ましていると、主人が話しかけてきた。

これから開催される鹿角花輪の祭りの話や自慢話を嬉しそうに語っていた。

この自慢話が特にすごい。

同じ内容の話をまるで決められた言葉しか話さないロボットのようにフレーズを一語一句間違えずに何回も話していた。

嬉しそうに話す主人を見ていると邪険には扱えない。

それから30分間ぐらい話を聞いていた。

大事そうに額に入れられた家宝の風呂免許なるものを自分に見せてくれた。

風呂免許は維新戦争以前に発行されたもので170年の歴史があり、全国でも唯一現存する風呂免許はここの銭湯にしかないそうだ。

俺は主人をぶっちぎりに褒めたたえ、写真をあらゆる角度から撮った。

風呂免許を片付けた後、嬉しそうに番台に戻っていく主人の姿を見て自分も嬉しかった。

 
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