朝食を食べた後はすぐに支度を整え、秋田市を出発した。


秋田港を通り男鹿半島方面へ自転車を進める。

港から男鹿半島までは沿岸に自転車道が敷設されており、男鹿半島を前方に望みながらのサイクリングは格別なものだった。

静かな海沿いを走ると無性にギターが弾きたくなる。

護岸のブロックの上で潮騒を聞きながら歌っていた。

予定もなく時間を気にせずにギターを弾いている感じが好きだ。

また自転車を漕ぎ始め男鹿半島に入った。

半島の入り口には大きな「なまはげ」の像が立っており、鬼の形相が威圧的な雰囲気を出している。

男鹿半島は秋田県を代表とする観光地として有名で年間を通して多くの観光客が訪れている。

「なまはげ」を代表とした伝説と伝承が非常に多い地域で興味深い。

男鹿半島の中心を通るなまはげライン沿いの真山神社を訪れた。

なまはげ伝承館という歴史資料館もある。

半島の反対側を通って大潟村方面に進んでいく。

天気が良いせいか海の色が綺麗に透き通って見えて北の海でも綺麗な海岸があることに嬉しさを感じた。

大潟村はかつて八郎潟と呼ばれた大きな湖があった。

そこを埋め立て大地を作り誕生した自治体だ。

湖の跡地には広大な田園が広がっている。

大潟村には無料のキャンプ場があったので今日はそこを利用することにした。

俺がキャンプ場でくつろいでいると、入口から重装備の自転車を押して近寄ってくる若者がいた。

日本一周をしているだろうことは雰囲気と装備でわかる。

若者、サトシくんは大学を休学し、沖縄を出発してから4か月かかって秋田に来ていた。

自分の倍以上の時間をかけて旅をしていることになる。

その行程には沢山の出会い、沢山の感動があったのだろう。

今まで経験してきた話を聞いていてそう思った。

サトシくんと夜まで話していて「自分には居場所がない」という言葉がでた。

毎日毎日場所を点々と移動し、野宿できる場所を探す。 この探す作業がしんどい。

野宿が慣れてなかった頃はうまく場所が探せず、駅前でテントを張っていたそうだ。

サトシくんと違い俺が感じる居場所がないというのは、精神的に落ち着けるよりどころがないことだった。

「家に帰りたい」のような物理的なことではなくて、現実の世界から自分の存在が浮いてしまっているのではないかと思う時がある。

街や観光地を訪れてもそこにいる人たちと時間の流れが違う気がして、誰とも会話をしていない瞬間は自分が透明人間なのではないかと錯覚する時があるのだ。

だから立ち話でもいいから人と接していたいのかもしれない。

サトシくんとの会話を通して自分の心の沈みの正体がつかめた気がした。

夜が更けてくると水辺が近くにあるせいか蚊が大量に押し寄せてきた。

ベンチに座っているとライトの周りに数十匹の蚊が集まりだし、テーブルに着地した蚊を手でつぶせるぐらいだった。

2人でシューティングゲームをしているかのように蚊を潰しまくり大戦争をしていた。

蚊の援軍は湯水の如く湧き出してきりがなかった。

白旗を潔く上げてそれぞれのテントに避難をすることにした。

お互い灯りをつけて、それぞれの日記を書き始めた。


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