昨晩は23時にもなると肌寒くなるほど風が冷たく感じた。


宴会で残った焼きそばを朝飯として食べている時、バンガローから無表情なおやじたちがのそのそと出てきた。

それは羊が小屋から1列に並んで出てくるようだった。

昨日の宴会の残骸を全員で片付け、豚汁の用意を始めていた。

昨日のお礼を言いにおやじ達のもとへと歩みよった。

「青年、豚汁食っていかんか」 「あ、はい」 遠慮がちに返事はしていたが喉から手が出るほど豚汁をすすりたかった。

ちなみに「青年」と昨日から呼ばれ続けていて、青年と呼ばれることも妙に好きだった。

海岸に隣接する田園の中を走り、海と反対側には北アルプスの壮大な峰々が見えた。

天気が悪く山の輪郭しか確認は出来なかったけど、3000m級の山が連なる姿は本当に美しい。

1時間走り続けると新潟県に入り、昔から旅人の難所と呼ばれている親不知に差し掛かる。

15㎞の連なった崖が続く地帯だ。

昔の人は崖をわざわざ降りて岸辺を歩いていたそうだ。

現在は崖にへばりついている道をすすみ、この親不知を通過する。

難所となっている箇所は洞門になっていて、よろけようものなら真っ逆さまに海に転落してしまう。

最難関となる天険トンネルは2輪車通行禁止となっていた。

眼下の海をちら見しては身がすくみ、スリルに興奮しながら親知らずを疾走していた。

親不知を越えると糸魚川市内に出る。

糸魚川市から上越市までは40kmもある比較的長いサイクリングロードが敷設されていて、のんびり日本海を見ながら走ることが出来る。

集落に目を向けると木造の旧建築の家が立ち並び、屋根瓦の質感がぬめっとした光沢を放っていた。

瓦の色がオレンジなのも、この地方独特のものかもしれない。

市街に出た時に自転車旅の青年と遭遇した。

話しかけた時の反応にいつもと違和感があった。

明らかにコミュニケーションを避けているのが相手の表情で読み取れた。

富山に住む高校生の青年は夏休みを利用し北へ向かって旅をしていた。

夏休み初日ということで彼にとっては旅の1日目だった。

これから冒険が始まるんだな。

きっと一人旅がしたくて旅に出たんだろう。

困惑したに違いない。

俺は青年の気持ちを汲み取り「邪魔したね」と言い、先に進むことを促した。

旅の仕方は人それぞれ。

俺の高校の夏休みは毎日のようにガテン系のバイトをしていた。

お金を沢山稼いでギターを買うことしか頭になかった。

もっと友達と遊んでおけばよかったし、もっと女の子と合コンしておけばよかった。

20km進んだところで2度目のパンクをした。

最悪。

タイヤの空気圧が低かったことが原因だと思う。

タイヤもかなりすり減っていて段差の衝撃でチューブに傷がついてしまったのだろう。

チューブを交換し携帯のポンプで空気を入れる。

携帯ポンプでは一定の圧力までしか入れることが出来ない。

既に替えのチューブが底をついてしまい、都市の新潟市まで120kmもあった。

走れる状態にすぐになったけど、いつパンクするやもしれないと思うとビクビクして、あまりスピードを出すことが出来なかった。


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