近畿地方に台風が接近し始め、日本海側でも強風と横殴りの雨が時折降っていた。
舞鶴で荷物を郵送したりと雑務をこなしていたせいで、自転車を漕ぎだしたときには雨風が強くなっていた。
嫌な気分で道を走る。
その嫌な気分がさらに拍車をかけ、20km進んだ福井県との県境でついにパンクをした。
寄ってきたトラックを避けようとして路側帯に踏み込んだ瞬間、ガタンガタンと急にスピードが落ち始めたのだ。
漕いでも前に進まないから一体何が起きたんだろうと一瞬考えてハッとした。
これってパンクした?
自転車からおりて後輪をチェックした。
見事にベコンベコンになっていた。
手で車輪を回すと、地面に落ちていただろう5㎝程の釘がささっていた。
その瞬間、天を仰いだ。
大粒の雨が口に入ることも厭わず、ショックのあまり茫然としていた。
理性が戻ると、路側帯に釘が落ちていた事と、トラックの傍若無人な運転にもの凄く憤りを覚えた。
自転車を押して近くの民家の軒先にとりあえず避難をした。
台風接近中にチューブ交換をする羽目になり、タイヤをひっぺ返しチューブを抜き取る。
作業中も横殴りの雨に打たれ続け、心臓をえぐるような悲しさがこみ上げた。
疲労困憊のラインまできていた。
1時間以内にチューブの交換を終え、走れる状態になった。
雨風のせいで走る気力を失ってしまった俺は、20㎞進んだ小浜市に避難することにした。
人があまり来ない街なのか、宿の設備は古く、居心地はいいものではなかった。
宿泊費も割高だ。
だけどこうして偶然宿泊して、2度と訪れることがないだろう街で、一夜を過ごすことは貴重な経験だった。
小浜市の商店街をブラブラと歩き、暇そうにしている店の主人の顔を見て、 「2度とこの顔は見ないんだな」と心の中で呟いた。

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