鳥取市の市街地は一歩国道から県道に入ると車の数が激減する。
休日の朝だからか、ガラガラのマックに入りお決まりのマフィンとオレジュースを注文した。
1時間ほどゆっくりした後に先へ進む。
市街地から鳥取砂丘までは4kmで行ける。
案内所や売店が立ち並ぶ駐車場から、小さな丘を越えると砂丘を見渡すことができた。
遠くの方まで砂丘は続いていて、思った以上に大きかった。
丘の上に延々とできた風紋はとても綺麗だ。
丘と窪んだ場所との落差が30mはあるような場所もあり起伏に富んでいる。
渚はかなりの傾斜があって、海まで誰も降りようとしていなかったけど、丘に座ってみんな海を眺めていた。
照りつける暑さと、砂に足をとられてヘトヘトになっていたおばさんが「ここへはもう二度と来ないだろうな」とボソッと言っていた。
砂丘の出入り口まで往復するにも結構な体力を要するのだろう。
他の人もヘトヘトになりながらも一歩一歩、砂を踏みしめていた。
おばさん、今度は冬にくるといいよ。
きっとまた「ここへはもう二度と来ないだろうな」とボソッと言うはずだ。
鳥取砂丘を後にし、海岸線を走り続ける。
本当は海岸線を走りたくはないのだけど、国道が途中から自動車専用道路に変わったため仕方なしに走るのだ。
なんで自転車だけが険しい道をとおり遠回りしなければならないのか。
他にも不便に思うことは多々あって、自転車乗りのためにも改革の必要性を感じた。
国道から迂回路に回され、兵庫県の日本海側である香住から城崎までの県道11号線が未だかつてない地獄のルートだった。
30㎞の区間に度胆を抜くようなアップダウンが連続する。
傾斜が10%は確実にあった。
幾つもの坂を上り、幾つもの坂を下ってもう坂はないだろうと安心していると、木々の影から恐怖の上り坂が現れる。
坂を見た瞬間、悲しいやるせない気持ちになった。
「ワオ」と思わず口にする。
やけになってペダルを回すタイミングで連呼する。
「ワオ!ワオ!ワオ!ワオ!」
もう気が狂いそうだった。
ただでさえ炎暑の中走っているのだ、独り言ぐらいしゃべってもいい。
汗みどろになり、棒きれの体でなんとか城崎まで到着した。
城崎周辺はもの凄い渋滞をしていて、レジャー帰りの人たちが遊び疲れた体を癒すために城崎温泉に向かっているようだった。
城崎を過ぎて円山川沿いを走る。
道路と並行して山陰線が走っていて、海に近いにも関わらず両岸は小高い山になっている。
川幅が広いのでフィヨルドのような美しさだ。
川の反対側へと赤い橋を渡って移動した。
陽の光の傾きでまた違った世界があらわれる。
川を離れて国道に合流する。
もう京都に入ってきていた。 のどかで落ち着いている。
夕日に染まる久美浜湾の淵を走るローカル線が日本の故郷のイメージを彷彿とさせていた。
人は生きているだけで幸せなんだな。
今日一日、観光地や海岸線沿いにある多くのビーチを見てきた。
そこには多くの人が訪れていて、みんな笑っていた。
砂丘に登って「疲れた~」って笑っていた。
「二度と来るか~」って笑っていた。
ビーチでは子供を抱っこして波にぶつかりながら、そろって笑っていた。
かき氷を食べながら笑っていた。 この日のために胸筋を鍛えた若者たちが、水着を着たギャルを見ながら笑っていた。 みーんな笑っていたよ。
生きているから笑うんだよ。
生きているから楽しいんだよ。
どんなに辛くたって、寂しくたって、悲しくたって笑える時が必ず来る。
その希望が生きている意味だと感じた。
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