テントに入り、蒸し暑さと戦いながらも眠りにつこうとした22時過ぎのこと。


キャッチボールをしに来た家族がいた。

お父さんとちびちゃんというかわいらしいレベルではなく、家族全員で野球の練習に励んでいた。

お父さんのミットに当たる「ピシャッ」という音が、ちび助の投げたボールの速度を物語っていた。

リトルリーグかなにかに入っているのだろう。

ストレートの次は変化球とリズムよくお父さんが指示をする。

深夜の広場には、「ナイスピッチーング。」というお母さんの甲高い声と、「もういっちょこーい」とちび助を鼓舞する余計なお父さんの声、ボールを投げるごとにキャッキャッと一喜一憂する弟の声。

それから1時間、野球ドラマは続き、広場の照明が時間によって自動的に落とされた。

「あー暗くなっちゃたよー」と残念そうな声を広場に残して家族は帰っていった。

こういうこともたまにはあるなと思いつつ、もう一度眠りについた。

それから90分後・・

深夜1:30。

ギターの音色とけたけたと笑う男の声が外で聞こえる。

アルコールで酩酊したフォークドュオの演奏会が野外ステージで始まったのだ。

一人はバッキング担当、一人はアルペジオやリフ担当。

音色に耳を傾け、扇子を仰ぎながら目をつむっていた。

二人は酔っているせいかチューニングがあっていなく、耳障り以外何ものでもない演奏をぶっ続けに弾いていた。

フォークドュオが帰った後、目が覚めてしまった俺は、テントから這い出してギターの弾き語りを始めた。

空が明るくなり朝が訪れようとしていた。

昨日との境目を見失いながらも今日の行動へと移っていく。

ギターをテントの中に放り込み、荷物をテントに残したまま朝のサイクリングへと出かけた。

サイクリングといっても往復14kmの山登り。

気温の低い時間であっても汗ばんでくる。

休めていないせいか体が重く感じた。

目的の展海峰に到着し、九十九島を一望する。

九十九島は、佐世保港の外側から北へ25kmにわたり島々が点在する海域のことで島の密度は日本一である。

九十九(くじゅうく)とは、数がたくさんあるという意味で使われる例え言葉で実際の島の数は208もある。

朝から絶景を拝めることができるのは、野宿のいいところだ。 宿に泊まっていたら、ベッドが気持ちよくて絶対に起きられない。

佐世保から伊万里へのルートは遠回りしてぐるっと海岸線を走っていく。

平戸市にある駅は日本最西端の駅のようだ。 終点の駅はなんか好きだ。

先にレールがしかれていないのもあるかもしれない。

その後、伊万里市を経由して一気に唐津市まで自転車を進めた。

博多まで50kmの距離に来た。

これで明日、大雨になっても確実に博多入りができる。

虹の松原と呼ばれる海岸で野宿をすることにした。

公道から100m以上離れているから騒音はない。

松原の左端に多目的広場があった。

外灯の本数も少なく、ビーチが目の前にある。

トイレの建物には、嬉しいことに冷水シャワーが付いていた。

汗でびしょ濡れになった体をシャワーで冷まし、体を洗った。

冷水シャワーはなんて気持ちいいんだ。

人目をはばからずシャワーを楽しんだ。

全身ずぶ濡れの状態でもこの暑さだ、30分もしないうちに乾く。

乾いて汗がにじんできたら、またシャワーを浴びる。

ビーチの木陰で横になって午後を過ごした。

夕暮れに高校生のカップルがビーチを素足で散歩していた。

こういうデートを自分も高校の頃したかったな。

見ているだけでも絵になる。

それにしても綺麗な夕日だった。


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