九州南部が梅雨明けの吉報を伝えたというのに天気は下降ぎみだ。


今日も朝から勢いよく雨が降っていた。

ベッドの上に寝転がり、天井のシミをまじまじと眺めていた。

雨が強くなったり弱くなったり、微かに聞こえる雨音が外の様子を伝えている。

昼近くに身支度をはじめ、雨足が弱まるまではリビングでゲストハウスのスタッフと雑談を交わした。

ゲストハウスには色んな人が訪れる。

別府のゲストハウスから応援に駆け付けに来ている人。

放浪中に長期滞在として住み込みで働いている人。

ナンパの旅をしているスケベな元歯医者。

年金で生活している長期滞在のおじいさん。

それぞれの旅の一時停止としてこの交差点を訪れる。

交差する瞬間の摩擦は情報共有や新しい価値観を教授してくれ、新鮮な気持ちになる。

正午過ぎ、濃霧で埋め尽くされたカルデラの窪みを移動し始めた。

一寸先は闇ではないけど目の前は白地のキャンパスのように、20m先を常に白い壁が立ちふさがっていた。

南阿蘇から阿蘇市へはカルデラの真ん中に位置する阿蘇五岳をはさんで反対側に行くことになる。

外輪山の内側に沿ってぐるりと周りこみ、一の宮の市街地へと入った。

一の宮も古くから湧水に恵まれ、その豊かな水を生活用水として利用してきた。

美しい水を多くの人に飲んでもらいたいと、十数年前から木や石造りの水飲み場を14箇所も設置しているそうだ。

阿蘇神社参道から仲町通りにかけ、散策コースとして楽しむことができる。

仲町通りを阿蘇神社と反対方向に進み、角を曲がった路地に行きつけの店がある。

行きつけと言っても2年前に訪れて気に入ってしまった店というだけだ。

店は旧洋裁女学校を改装した建物で、古道具や雑貨類の販売・ギャラリー、カフェとして運営されている。

小川の流れる静かな雑木林の中に学校跡地があり、この一角だけ別世界に入ったような昭和のノスタルジーを感じることが出来る。

以前に来たときと違い、お店の周りには新たにカフェやギャラリーなどが立ち並んでいて、コミュニティが出来上がっていた。

7軒もあるようで若い年代の子が出店をしていた。

コミュニティが出来ると町も盛り上がるし、新しい風が吹く。

きっとここから新たな文化が生まれるんだな。

アンティークのソファーに座り、コーヒーを口にしながらゆったりと時間を過ごす。 色鮮やかな紫陽花が雨で濡れている。

お店には色んな方が訪れる。

オーナーさんの人柄もあってか地元の方もやってくる。

地元の談笑の輪に入り、和んだ雰囲気に溶け込む。

入れ替わり立ち代わり地元の人がオーナーさんに会いに来る。

忙しなくもてなす姿が、客人を招いてひんやりした麦茶を差し出す、近所のお母さんに見えた。

そんなオーナーさんに会いに来た人の中に芸術家がいて、熱心に野望を語っていた。

彼は自分に何ができるのだろうか?という問いに対して真剣に向き合っていた。

「阿蘇にもっと観光客を呼びたい。」

「来てもらうだけでなく、宿泊してもらえる仕組みをどうにかして作りたい。」

使命感を持って生きている、というか凛とした生き様は気持ちがいいほどだった。

野望をことごとく実現させていく彼のバイタリティが、自分の心に火をつけた気がした。

3時間滞在した店を離れ自転車を漕ぎだしたとき、心に灯った炎がゆらゆらと揺らめきはじめた。

何も考えず今をひたすら楽しむ旅のスタイルで本当にいいのだろうか?

旅の中でまだまだ何かができるのではないだろうか?

もっと何かを発信していく必要があるのでないか?

使命感を持って旅をしてもいいかもしれない。

自分の価値観の軸が店で出会った色々な人によりブレた気がした。

心肝を揺るがすような大地震。 そうして友達の住む町へと向かった。


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