朝の6時には目が覚めていたけど、目的地へのバスは9時半にならないとバス停には来ないため、 ゆっくりと朝の時間を使い過ごすことにした。


読書したりギターを弾いたり、2段ベッドが3台並んだ1画であくびをしながら時間を潰した。

明日、屋久島のメインディッシュとなる縄文杉まで登る計画を立てた。

今日は前菜として、周辺に存在する紀元杉とヤクスギランドに行くことにした。

この2ヶ所は車で行ける場所にあるため、比較的お手軽に屋久島を堪能できる場所として人気がある。

予定時刻にバスに乗り、海抜50mから1時間かけて1000m付近まで登る。

降りた場所は鬱蒼とした木々が生い茂る深い森の中。 聞こえてくるのは木が揺れる葉の音と、こんこんと流れている水の音。

特に木が揺れる音は少し怖さを感じるぐらい音が大きく、嵐が来るのではと勘違いするぐらいだった。

屋久杉との初対面は紀元杉だった。 樹齢3000年。 でかい、でかすぎる。 木の外周をぐるっとまわり、口をあんぐり開けて空を見上げた。

木のてっぺんがあんな先に見える。 こいつはずっと生き続けているんだもんな。

ついつい「君が代」を独唱していた。

紀元杉からヤクスギランドまでは5㎞なので、徒歩で移動した。

新鮮な空気をいっぱい吸いたくて過呼吸になってしまうぐらい深呼吸を何度もした。

ヤクスギランドは奥深い屋久杉の原生林で、設定された4つのコースを楽しむ自然休養林となっている。

俺は一番長い150分コースを歩くことにした。 ヤクスギをはじめ巨木の森をじっくりと堪能できるのが150分コース。

江戸時代に伐採された森が回復していく過程が歩いていると所々に垣間見ることができ、永遠に生き続ける屋久島を体感できるそんなコースだ。

屋久島には切り株更新、倒木更新という特有の杉の世代交代の現象がある。 枯れてしまった木から子供が生まれる仕組みは、枯れた木に付着した苔の上に杉の種子が落ち、その苔が苗床となって杉が成長していく。

湿度が安定して高い屋久島ならではの現象。

見応えのあるコースで誰もいない森を一人黙々と歩いた。 点々と存在する巨木は、まるでコースのゲートのように立ちはだかり、無言のまま仁王立ちををしていた。

前菜にしてはあまりにも美味しい味わいで、明日への期待感がどんどん増した。

再び、バスに乗って山を下りた。 宿に戻り写真の整理をしていると、部屋に入ってくる若者がいた。

事前に宿のスタッフに今日は相部屋になると聞かされていたので、宿泊者がチェックインしたんだと気付いた。

宿泊者:「あれ?フェリーの自転車の人ですよね?」

俺:「あれ?今日ここですか? うわーすごい!」

なんと行きのフェリーが一緒だった大阪人、大城さんだった。

島は小さいなと思いながら、知人が相部屋になったことに少し嬉しさを感じた。

大城さんはフェリーから降りた後、登山の装備をレンタルして初日から山を登っていたらしい。 昨日は縄文杉近くの山荘に宿泊し、屋久島最高峰の宮之浦岳を登頂して今、下山してきたばっかだった。

山にいる時は雨に打たれっぱなしで、生乾きと風呂に入れていない匂いを気にし、異臭が...異臭が...を連呼していた。

人が黙っていても永遠に話し続けていそうな気さくな方だ。 再会した喜びもあり、昨日行ったレストランに案内することにした。

大城さんの誘いでもう一人加わり、三人で夕食を食べにレストランのドアを開けた。

誘われたもう一人、弥生ちゃんも同じフェリーに乗っていて、大城さんと同じように昨日は山荘で宿泊し今日、下山をしてきた。

ほんとうに面白い。 鹿児島から乗船した人が7人ぐらいだったとして、そのうちの2人は自転車仲間だし、もう2人は目の前にいる。

弥生ちゃんは屋久島まで東京からヒッチハイクで来ていた。 車を7台乗り継いで2日しかかかってない。

目標100台ヒッチハイクを目指していて、ほんとぶっとんでいる人だった。 なかなかできることじゃないからすごいよ。

夕食の注文はまた飛魚のから揚げにした。 今日もぺろりとたいらげる。 いやうまい。

レストランを出た後は弥生ちゃんと別れ、大城さんの誘いで居酒屋へと足を運んだ。

通りを1本入った路地にある店に入り、地酒である「三岳」と「愛子」を飲んだ。 三岳は清らかな水を口にしているようなすっきりとした飲み口、愛子は正反対に芋臭さが匂う味わいのある飲み口。

カウンターに座って、飛魚の塩焼きを肴にしながら大将とくだらない話や屋久島の登山の話をした。

大将は滑舌が悪くて、何をしゃべっているのかわからなかったけど、大城さんは雰囲気で話を膨らまして盛り上げるからすごい。 大阪人の腕だな。

宿に帰ってからも少しだけ飲み直して、ベッドに座りながら会話を楽しんだ。

明日はいよいよ縄文杉、朝の4:30起きで登山に向かう。

わくわくしながら布団にもぐりこんで、眠りの中へと入っていった。



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