前日から干していた洗濯物がいっこうに乾かず、待機を余儀なくされた。
夕食にパンしか食べていなかったので、頭にクソがつくほど腹が減っていた。
我慢できなくなり、うすら濡れた衣服を身にまとい出発することにした どうせ汗ですぐにびしょ濡れになるんだから関係ない。
今日も朝からうだるような暑さがお目見えし、満タンにした水筒も汗の量に比例して消費されていく。
田園地帯を走り抜け、35km先のスーパーでやっと朝飯にありつくことができた。 ご飯を食べる前に、購入したスポーツ飲料をがぶがぶし、体内の水分量を調節した。
まだご飯がのどを通らないほど衰弱はしていないから大丈夫だろう。 ご飯をたべたスーパーから、はひたすらに走り続ける。
走り続け走り続け、ほっそい山間を通る県道へと進路をとった。
地元の人しか通らないような道で、すれ違う車を見ることがなかった。
そんな山間にひっそりとたたずむ温泉街がある。
「川内高城温泉」
街とつくような立派なものではなく、集落に温泉が湧いた程度のこじんまりとしたものだ。
西郷隆盛も訪れ愛好したという歴史ある温泉で、時代の流れから取り残されたような風情ある温泉街だ。
街道の中ほどにある雑貨屋さんの脇に、共同湯と書かれた看板があり、路地を入ると雑貨屋の奥に入浴場が存在する。
雑貨屋のおばあちゃんに石鹸を貸してもらい、入浴料200円を払い男湯にはいった。
なんとも年季の入った味わいのあるたたずまいで、風呂場には棚と湯船しかない古典的な造りになっている。
湯船の脇にあぐらをかいて体を洗う。 桶で湯船からお湯をすくって洗い流すんだけど、いかんせんすさまじい熱湯で、源泉かけ流しなんだろうけど50℃近くあると感じた。
すくったお湯を1:1で水で割り、じゃばじゃばと体をすすぐ。 問題はどう浸かるかだ。
湯船が2つに仕切られているため、2つの桶を使い、水を一人バケツリレー方式で注いでいく。
10杯以上の水を入れてやっと浸かることができたんだけど、45℃ぐらいにしか下がっていなかっただろう。 2分も経たないうちに我慢の潮時が訪れて、一時退却をした。
棚に置いてあった団扇を仰ぎ、体のほてりを一生懸命に冷ましまた浸かる。
温泉から出た後は、雑貨屋の軒先の木箱に座り、山間を抜ける風に当たりながら体の火照りを冷ましていた。
雑貨屋のおばあさんからバナナを頂き、買っておいたおにぎりとコロッケを鞄から取り出して、軒先で食べることにした。
あまりの気持ちよさに1時間以上ぼんやりとしていた。
14:00を回るとぎらついた太陽が容赦なく熱線を浴びせかけてきて、走り続けることができなくなる。
そうなるとスーパーはかっこうの憩いの場になる。
アイスクリームと炭酸飲料を買い、冷房にあたるのだ。
休み休み自転車を漕いで、日の入りの前に長島へと渡った。
目の覚めるような青い海原と、海岸から山頂に向かい営々と築き上げられた段々畑が、自然と人の営みが調和したやさしい風景を作り出していた。
次第に太陽は赤く燃え始め、東シナ海の向こう岸にある天草の山々に姿を消していった。

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