悪夢にうなされ深夜2回も冷や汗をかきながら起きた。 夢の内容は、昨日出会った老人にテントごと食い殺される夢だった。


なんとも恐ろしい夢だ。

そんなもんで朝からテンションが低くなってしまい、あやつり人形のように誰かに指図されない限り、動く気にもなれなかった。

2時間ぐらいボーっとしていたかな。 気づけば周りにはゲートボールをしに来た老人だらけになり、若者が一人まぎれている状態になっていた。

昨日からなんなんだ全く。 しゃべっている内容が全くわからない。

特に聞き耳を立てているわけではないけど、気づかぬうちにそれがストレスとなっていた。

いてもたってもいられなくなり、命が吹き込まれたピノキオのように自らの意思で身支度をし、悲しき多目的広場を後にした。

早朝は空一面をびっしりと雲が覆っていたのに、走り出して数時間でカンカン照りのうだるような暑さに変わった。

指宿に到着した時には尋常じゃない汗をかいていて、額にかいた汗が今度はどこを通ろうかと迷っていたぐらいだ。

風呂に入りたくて温泉へと急いだ。 指宿と言えば砂蒸し風呂。

世界で唯一の天然砂蒸し風呂として有名な地である。 300年もの昔から人々に語り継がれてきた砂蒸し風呂の効果は、医学的にも実証されており、普通の温泉のおよそ3~4倍と結論づけられている。

海岸近くにある有名な旅館「砂楽」に行き、人生初の砂蒸し風呂を体験した。

シーズンのせいなのか、全天候に対応した屋根付きの砂場へと案内された。

本当は砂浜にじかに埋もれてみたいね。

砂場には既に人型に窪みが用意されていて、そこにはめ込まれるように体を寝かせた。 寝た途端にスコップを持ったおばさん二人がかりで、軽快なテンポで砂をまんべんなく体の上に敷き詰める。

多分ツタンカーメンのミイラぐらいの厚みはある。

程よい重圧感に酔いしれ、目をつむりながら波の音とおばさん達の軽快なスコップの音を聞いていた。

上に乗せられた砂の重さは、冬の季節の実家を思い出させた。

俺の実家は寝室では暖房を一切かけない。 必ず吐く息は白くなるし、鉄筋造りだから余計に寒いのかもしれない。

暖房をかけない代わりに、薄っぺらいせんべい布団を何枚も上に重ね毎日寝ていたのだ。

砂に埋もれて10分もしないうちに、次第に体が熱を帯びてきて、かかとがやけどするぐらいの痛みを感じた。

足をもぞもぞと動かしていると、足先が噴火を起こし、盛っていた砂があっけなく崩れて10本の指が露わになった。

自分の脈打つ音がズキンズキンと警告音を鳴らし始めた段で、墓から這い出すゾンビのようにズボッズボッと手や体を出し、ふらふらな状態で立ち上がった。

貧血気味になりつつも爽快感は格別で、体の毒素がすべて排出されたような気分になった。

砂を洗い流した後は温泉に入浴しほんのりとフローラルな香りを身にまとう。

指宿を出発し、上り坂がくると一瞬で爽やかな匂いは消える。 良き隣人である「汗臭さ」のおでましだ。

指宿から枕崎に抜ける道の間には、鹿児島の富士山と異名をとる開聞岳がそびえている。 残念ながら今日は、お気に入りのメキシカンハットを斜めにかぶっていて全貌を見ることが出来なかった。

だけど空の青と雲の白さで演出するマーブルはなんて美しかった。 刻一刻と変化する雲の動きが何とも言えない美しさを造形している。

枕崎から南さつまに移り、海岸近くに公園があったので、今日はそこで野宿することにした。

公園の近くには特攻平和祈念館があったけど、既に開館時間を過ぎており入館することが出来なかった。

公園の近くにはスーパーもコンビニもなかったので記念館に併設された物産館でパン一つを夕食に買い、明日着る服を手洗いした。

脱水もできないからあまりしたくないけど、背に腹は代えられずもみくちゃに洗う。 唯一の利益はテントの骨組みが物干しになることだな。

今日は蛙や虫の鳴き声しか聞こえない静かな夜だったから、何事もなく安らかに眠ることができた。


o0800060011310400457
o0800060011310400458