鹿児島から屋久島までなんで13時間も要するのか。
種子島を経由する際に、港に7時間停泊するからだ。 長時間の船旅は結構きついかもしれない。
種子島を出航したのは朝の5時過ぎ。
船が動き出したのが体に伝わり、起き上がって甲板に出て、朝の空気と種子島の大地を目に焼き付けた。
目から見える景色がすべてブルーに包まれていて、海上にいるにも関わらず水中にいるような錯覚に陥って、船が海を切って進むときに出るしぶきの音以外、聞こえない静かな朝だった。
屋久島が船の窓から見え始めると、みんな興奮して一斉に甲板に駆け出した。
「おおおおおおお。」
それぞれに感嘆の声を上げて、カメラのシャッターを切っていた。
洋上はものすごい風が吹いていて、何かにつかまっていないと飛ばされてしまいそうだった。
客室で知り合った大阪の人が記念撮影を試みようとしていたけど、カメラが風に飛ばされそうになって断念していた。
屋久島につき、荷物を整えたら、目的を果たすためにまたそれぞれの道へと一歩前進していった。 今回も交差点の前で二人に別れを告げた。
二人は島の北側。 俺は南側。 また屋久島で会うかもしれない。 北海道で会うかもしれない。 いやきっと会うんだろう。
だから名残惜しさは感じなかった。 別れのあいさつは決まっていたんだと思う。
「じゃまたな」
磁石が反発するかのようにお互いに反対方向へ進んでいった。
屋久島は意外とでかく、外周が105kmある。 フェリーが到着した港から目的地の安房までも20kmある。
屋久島に連休を利用してくる場合は安房がおすすめだ。
登山がメインの場合は別だけど、観光に来るには色んな場所へのアクセスも良く、お店もそろっている。
バックパッカーズに到着した後、スタッフに島での過ごし方を聞き、今日の計画を練った。 登山は時間的に難しかったため温泉に行くことにした。
親切なスタッフの方に途中まで車に乗せてもらうことになった。 温泉までの道の途中に有名な滝があるといい、休憩時間にも関わらず寄り道して案内して頂いた。
自転車、まして徒歩では辛くて行けない場所だったので本当に良かった。
ドライブ中も屋久島の事を教えてくれ、地元の人と話すことの大切さを教わった気がした。
降ろしてもらった場所から温泉まで10kmあり、干潮の時間まで2時間はあったので、屋久島の自然を見ながら散歩することにした。
満潮時には海中に沈んでしまう温泉。
「平内海中温泉」
海岸の岩がごつごつした場所に源泉が湧いていて、良い具合に浴槽ができている。 しっかり硫黄の匂いもしていて、42℃ぐらいの適温。 目の前には海と雄大な森林が広がっている。 これぞ極楽だ。
磯に温泉があるから舟虫がうじゃうじゃいて、それが気になる人は無理かもな。
温泉を楽しんだ後、バス停まで歩き始めたらスコールが襲ってきた。 てくてくと道路を歩いていると反対車線に車が止まった。
雨に濡れるのもお構いなしに走り出していた。 車のドアを小突いて話をさせてもらう。
「すみません、ものすごい雨でしてこのざまです」
無残な状態にかわいそうな若者感を演出した。
「どこまで行くの?」
「安房までです」
「歩いてかい?」
「はい」
「トレーニングしてないんだったら乗せてってやるよ」
「いいんですか?乗ります!!」
助かった。 バスを待っていたら精神が崩壊するところだった。
わざわざ元来た道を引き返し、20kmはあるだろう距離を乗せて頂いた。
乗せて頂いた方は東京出身で、俺と同じように自転車で屋久島に旅をしに来たことがあるそうだ。 その旅で屋久島に触れて、ここが自分のいる場所だと感じ、東京の仕事を辞めて屋久島に永住することにした。
自分の探していた欠片が屋久島に埋もれていたのかもしれない。
話を聞きながら、俺も旅で訪れる場所に自分の欠片が埋もれているのかなと思った。 それはそこに住みつくことではなく、自分らしく生きるヒントが見つかること。
宝さがしの地図のようなものが。
夕飯はお金を使って外食をすることにした。 何日かは息抜きのため、外で食べるのもいいかと思ったから。
スタッフの勧めで近くにある小さいレストランへ。 ドアを開けると8割は観光客でにぎわっていて、店員はてんやわんやで忙しなく動いていた。
地のものを食べるため飛魚のから揚げ定食を注文した。 小鉢も2個ついていてボリュームもあった。 飛魚の姿揚げは絶品だ。
魚のうまみが口に広がり、衣と肉の歯ごたえがいい。 ぺろりとたいらげてしまう。 明日も来たい、そんな店だった。

コメント
コメント一覧 (2)
日記を読んでいると気持ちが痛いほど伝わってきます。
日記を書いたかいがありました。ありがとうございます。