大雨洪水警報発令。


朝起きて出発した時点ではそんなことは知らず、後々におじさんから教えてもらうのである。

朝のちょうど小雨の時間を狙って自転車を漕ぎだした。 10km進んだぐらいだろうか、大きな荷物を自転車に積んだ二人組に遭遇した。

そのうちの一人はママチャリに乗り、荷物を四方八方にくっつけていた。

前かごは取り外されコンテナ装備。 荷台には大きなコンテナが乗っかり、防水シートで覆っている。

もはやママチャリの片鱗が見えない。

「すげー荷物だな」というのが最初の印象で、自分の荷物と比較すると倍の荷物を積んでいた。

もう一人はマウンテンバイク。 こちらも負けじとアクセサリーが装飾されている。

二人は群馬県出身で、出発の時期が自分とかぶっていた。

会社を辞めて20代最後の冒険に出たところも通じるところがあり、すぐに親近感がわいたのだ。

二人がなぜそんなに荷物を積んでいるか。 自炊道具の多さだ。

俺も出発前に「自炊」の2文字が頭をよぎったけど、荷物が2倍になること、走行スピードが落ちること、食事に時間がかかることなど、デメリットが食費にお金をかけることよりも大きかった。

実際、今回の旅の仕方で良かったと思う。 自分の求めていた旅の仕方だし、自分の限られた時間を有効に使えている気がしたのだ。

それにしても、二人が雨の日も自炊して野宿をしているのはすごい。

二人の南下の最終地点は屋久島らしく、長期滞在をして、しらみつぶしに探索するそうだ。

俺も屋久島に行く予定なので、また屋久島で逢えたらな。

そして別々の進路をとり、名残惜しく交差点で別れた。

俺は日向岬を目指し、国道から脇道に入って行った。

日向灘に突き出た宮崎の日向岬には、柱状岩で形成された絶壁がある。 「馬ヶ背の断崖」と呼ばれている。

高さが70mもある断崖で、柱状の四角い岩が波によって浸食されてできた地形らしい。

まるで背丈がそろっていない大きい鉛筆が並んでいるかのような景観だった。

断崖の左側を歩いていくと、絶壁を見渡すことができる小さな岬があり、遊歩道が作られている。

岩肌の色が馬の背の栗色をしていることや、馬の背のように狭い岩場であることから 「馬ヶ背」と呼ばれるようになったそうだ。

馬の背中から転げ落ちないよう慎重に遊歩道を歩いた。

雨じゃなかったらどんなに気持ち良かったことか。

ゆっくりすることもできなく、断崖の少し先のクルスの海にも足を運んだ。 こちらは海と岩場によって十字架が作られているように見えるところから名づけられている。

また十字架の左に、口の形をした部分があって、「叶」という字にも見えることから、願いが叶うクルスの海として親しまれている。

観光地を離れ、自転車にまたがろうとした矢先。 雨が勢いよく降り出した。

本降りってやつがいよいよきたか。

大雨の中、自転車を漕いでいると雨粒が体に刺さるように一粒一粒に衝撃がある。 自転車に乗っていても泳いでいる感覚になるんだ。

口をあけていると溺れてしまう。

これだけ激しく雨が降っていれば、町の匂いは感じないと思ったけど、牛舎の匂いがたまに鼻をくすぐった。

畜産が盛んな宮崎らしいなと、冷静に大雨に打たれながらも感じていた。

休憩がてらスーパーの軒先のベンチで、地元のおやつと炭酸飲料を買い、滝のように落ちてくる雨の音を聞きながら読書をしていた。

降りやまない雨はないのだろうが一向に雨足が弱まる気配はなかった。 スーパーに来た客を迎えては、見送る。

2時間ほどボーっとし、宿を目指してまた泳ぎ始めたのだ。


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