朝を迎えると山側から霧が降り、道の駅周辺のありとあらゆるものを白く包み込んでいた。
風の影響なのか霧は30分もしないうちに海側へと消えていき、再び視界のひらけた朝がやってきた。
平日の朝に自転車を漕いでいると、当然のことながら学生の通学時間とぶつかる。
集団登校をしている小学生や、友達とつるみ自転車で登校している中学生、高校生もいる。
その土地土地で学生たちの格好も違えば、表情も少し違っていたりする。
宇佐市を走っている途中、女子高生の格好に目がいった。 みんなローファーを履いているのではなく、紺のソックスにワーキングブーツかバスケットシューズを履いていたのだ。
同じブランドのブーツを履き、登校している。 一種の軍隊だな。
流行る文化もそれぞれで、軽くショックを受けた。
宇佐市には由緒ある神社がある。 八幡宮の総本山である宇佐神宮があるのだ。
日本には約11万の神社があるらしく、そのうち〇〇八幡宮とつく神社は最も多くて、4万600社もあるのだそうだ。
鳥居や本宮の屋根が茅葺になっていて、なんとも風情がある美しい神社だった。
神社を訪れるなら朝に限ると思う。 人がいなければいないほど、空気が透き通っていれば透き通っているほどスピリチュアルな何かを感じる場所に変化する。
神社やお寺の風化した色合いがとても好きだ。 塗り替えたばっかの燃えるような朱色には威圧感を感じるけど、雨風で風化したサーモンピンクの壁や柱を見るととても落ち着く。
参拝した後は宇佐を後にし、山を越えればそこは別府へとつながっている。
別府湾を望みながら緩やかな坂を下っていくと別府の街並みが見えてくる。
自分の想像では、温泉の煙がもくもくとあがった寂れた温泉街だろうと思っていたけど、商業都市として栄えていて、温泉街のイメージがまるでなかった。
大分市の次に大きな都市なのかな。 そのくらい驚きがあった。
別府と言えば温泉。 周辺を探して古そうな温泉施設があったので入ってみた。
お値段、100円。 破格の安さだ。
別府は湯量が多いと聞いていたけど、そのせいかな。
共同浴場なため、洗剤は置いてない。
昔の銭湯と同じ形式なのだろう。 男湯の暖簾をくぐると、だだっ広い空間があらわれる。
手前側に衣服を脱ぐ場所があり、奥に正方形の浴槽があった。
物珍しさに一瞬目を丸くしたけど、その風情に笑みを浮かべた。
脱衣場と風呂場はかろうじて段差で別れている。
風呂場には体を洗う場所が設置されておらず、壁に蛇口がついていないのだ。
みんな浴槽からバケツでお湯をくんで、体や頭を洗う。 そしてタオルもすすぐ。
風呂場にいたおじさんたちと俺は浴槽の周りをぐるりと円陣を組み、バケツにお湯をくんでは石鹸を体にすべらすのだ。
50円で販売されていた石鹸を購入し、人差し指と薬指で軽くはさみ、すべらすのだ。
頭を洗った後のゆすぎも、浴槽からくんだお湯を手を震わせながらちびちびとかける。
衛生的に悪いのかもしれないけど、江戸時代の温泉場はこんな感じだったのだろう。
昔の生活を垣間見れるいい体験になった。
風呂上りに扇風機を回して少し涼むことにした 若者はこういった古い銭湯に来ないのかな。
番台のおばさんが扇風機を見つめる俺を珍しいそうな顔で見ていた。
別府を後にするとすぐに大分市に入る。 今日の進める距離を見積もって、そこまで遠くない道の駅を目指した。
今日抱えていた最大の悩みは、大分市から宮崎県の延岡市までどのルートを進むかだった。
どの道も地図を見ると嫌な感じで、なかなか決められないでいた。
- 海岸線を進む、アップダウンてんこ盛りのリアス式海岸ルート
- 少し深めの山中をくねくね曲がり走る、ワインディング長距離ルート
- もっとも深い山中を走る神々が眠る、ゴッドブレス短距離ルート
どれを選んでも地獄は目に見えている。 だけど明日中には延岡まで行きたい。
なぜなら明日の午後から九州の天気は雨になるからだ。
いつまでも悩み続ける自分の心を無視するように、夕日は相変わらずでっかくて、海岸から日が落ちるのをずっと眺めていた。

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